BIBOUROKU

にしけんだだだ

あの日見た水曜日のカンパネラ

以前、とある場所にこんな文章を書いていた。このブログは、それを加筆して修正したものである。

 

──────────────────────────────

水曜日のカンパネラの話をしよう。

 

かつては、飛ぶ鳥を落とす勢い、いや、飛ぶ鳥の高さまで飛んでいた水曜日のカンパネラ。武道館公演では本当に飛んでたらしい。そんなぶっ飛んだところが魅力の水曜日のカンパネラ

 

一時期、私服はほぼほぼ毎日水カンのTシャツだったこともあったぐらい好きだった。

ライブにも何度か行ったことがある。その度に予想を遥かに裏切るパフォーマンスで度肝を抜かれていた。

 

僕が好きになったきっかけである、初めて行った水カンのLIVEの話をしたい。

 

時は、2014年12月19日。当時は今ほど知名度はなく「桃太郎」という曲がラジオで時々かかる程度。その「きっびっだーん きびきびだーん」というフレーズがどうにも頭から離れなかった。WEBと検索すると「鹿の解体」をやっているとかいう情報が目に入ってきた。こんなとんでもない人たち、絶対にLIVEに行ってこの目で確認しなければ、と思った。

 

youtu.be

 

チケットぴあで買ったチケットを手にして会場に向かうと、「コムアイちゃんかわいいー!」みたいな若いキャピキャピ女子はいなかった。100人入ればパンパンの小さなライブハウス福岡Voodoo Loungeに集まったのはサブカルおじさんばかり。そして、圧倒的メガネ率(自分も含む)。

 

対バンのバンド、アカシックの出番が終わり客電が落ちると、なぜかかかりはじめたのは「キン肉マン音頭」。

「え?何事?」と後ろを振り向くとキン肉マンのマスクを被ったコムアイさんが歌いながら客席から現れた。度肝を抜かれたポイントPart1。

 

そのままステージに向かい、「指定[コンプラ]が5つあるんだぜ福岡ー!」とマイクに向かって叫ぶコムアイさん。度肝ポイントPart2。

 

Macbookから自分で曲をかけて、一曲目「二階堂マリ」を踊りながら歌うコムアイさん。続く「千利休」「桃太郎」というアルバムのメインを張るナンバーで客の心をしっかり掴んでいく。

 

ジャンヌダルク」というバスガイドをテーマにした曲では、トロッコ的なものに乗って客席をぐるりと一周。水曜日のカンパネラの定番とも言える客席でのパフォーマンスは、すでにこの頃からあった。

 

1曲歌うごとにMCを挟むコムアイさん。MCが上手い。ステージにはスタッフもおらず1人きりで、堂々として客いじりを行なっていく。USJのターミネータの前説、綾小路麗華ばりタメ口でどんどんいじっていく。

 

ところが、そのライヴでは、気になることが一つあった。ずっと、ガヤを飛ばしまくるチンピラおじさんがいたのだ。そのおじさんは色黒でいかついサングラスをかけたザ・チンピラスタイル。さらに、ベロベロに悪酔いしていた。

 

コムアイさんがなにかを喋る度に「え??何曜日??」「いくつなの??」「本名なに??」とガヤを入れるチンピラおじさん。最初の頃はしっかりそのガヤにもレスポンスを返す律儀さを見せていたのだが、しつこいおじさんに「あーもう、はいはい」とまともに取り合わなくなった。お客さんのほとんどが「なんやねんあのうざいおじさん」という空気になっていた。不穏な空気である。

 

そして最後の曲「ドラキュラ」。

 

youtu.be

 

コムアイ「この曲はみんなにも歌ってもらいまーす」

おじさん「えーなんでー??」

 

チンピラおじさんはやはりガヤを飛ばしていた。悪い意味でフリーダム。

 

「ちょっと、そこの君!!」

と、なんと、コムアイさんが客席に降りて行く。向かったのはもちろん、いかついチンピラおじさんのところだ。

 

不穏な空気はMAXが会場内。このままおじさんと喧嘩してLIVEが中断するのではないか、そんな空気が張り詰めていた。その時。

 

コムアイ「ステージに上がってもらうよ!!!」

 

いったい何を言い出すんだと思った。コムアイさんはそのままチンピラおじさんをステージにあげてしまった。まだまだ緊張感は漂ったまま。

 

ピリピリした空気の中、ステージの上ではコムアイさんがオープニングで被っていたキン肉マンのマスクをそのおじさんに被せてしまった。

 

「じゃあ、改めて、みんなも一緒に歌ってもらいまーす!ちーすーたろーかー!あ、これみんな歌わないと曲始まらないからね」と言い始めるコムアイさん。

 

キン肉マンのマスクおじさんはその背後に立っていた。いつ後ろから殴られても蹴られてももしくは突然抱きつかれてもおかしくない。

 

なんかやばいことになったぞ、客全員が思いながら「ちーすーたーろーかー」と歌い始める。

 

「声が小さいよー!もっとお腹から声出してー」というコムアイさん。煽られるがままに声を出す客席。そしてそのあと、客席の我々は驚きの光景を目にした。

 

例のチンピラおじさんがキン肉マンのマスクをつけたままEXILEChoo Choo TRAINよろしく、コムアイさんの後ろをぐるぐる回りながら手拍子を始めた。「っおい!っおい!」と掛け声も付いている。ステージ上でコムアイwithチンピラおじさんのユニットが爆誕してしまったのだ。

 

チンピラおじさんは仕込みの人ではない、念のため。対バンのアカシックのときもガヤを飛ばしていたし、普通にチケットを買って入場していたからである。

 

いったい何を見せられているんだ、という思いで大合唱になっていく「ちーすーたろーかー」。合唱がピークになったところで始まった最後の曲。すごいグルーヴが産まれていた。

 

曲の最後。会場の一番高いところによじ登り、コムアイさんがクラッカーを「パン!」と鳴らしてLIVEは終わった。

 

僕は感動で呆然とした。こんなエンターテイメントがあるのか。とんでもないものを見てしまった。アクシデントというピンチをこんな感じでエンターテイメントへと昇華させていく水曜日のカンパネラのパフォーマンスに、このグループはもっとすごいところまで売れる、いや、売れてほしい!そして、なんとかお金を払いたい!と思い物販へと向かったのだった。

 

──────────────────────────────

 

あれから何年たっただろうか。水曜日のカンパネラから、コムアイが脱退するというニュースが今日、発表された。寂しいような、納得のいくような気持ちだ。

これから始まるであろう第二章はどんな世界を見せてくれるのだろうか。また、そして、その新しい姿を愛することはできるのだろうか。とはいえ、また水曜日のカンパネラが見れるのだ。やっぱりなんだか楽しみではある。