Official髭男dismの大躍進から見えるCDTVランキングの現状
小学生の頃から僕は「CDTVをご覧の皆様」だった。CDTVは僕のユートピアだった。CGキャラによる進行。場面を盛り上げるナレーションもツッコミのテロップも足された笑い声もない。常に無観客のスタジオライブ。ゆっくり流れるアニソンの静止画。
ミルクボーイの漫才に出てくるコーンフレークくらい製作者の顔が見えない。まるでAIが作っているのかと思えるの人間味のなさだ。意図してそうしているのではないのかもしれないが、土曜の深夜に見るにはちょうどいいフィット感。それが心地よかったのだ。
CDTVはマイナーチェンジこそするものの20年以上変わらない基本フォーマット。それもAIじみてはいたのだが、変わらない安心感。老舗の味こそがCDTVの良さであった。
しかし音楽番組界のシーラカンス、CDTVにも変化が訪れる。CDが売れなくなった時代が長く続き、上位に入るのはアイドルやアニソンばかりになった。ドームクラスのアーティストも入ってくるものの、TOP10全てが名前も知らないアーティストであることもしばしばだった。すると、この状況を変えようと人間たちの手が加えられ始めた。
2017年4月9日、放送25年目にしてCDTVはリニューアルした。放送時間は55分→70分に拡大。増えた分はARTIST FILEという別番組のような新コーナーが始まった。さらに、ランキングの集計方法が変更になった。
CD売り上げ中心のシングルランキングからオリジナルランキングへ変更。集計内容は明らかにされないものの、CD売上、音楽配信ダウンロード数、動画サイト再生回数、SNSのメンション数などを加味したランキングへと変わった。
その結果、アルバム曲がランクインし始めた。また、洋楽も入ってくるようになりエド・シーランのPVを毎週目にするようになった。一方で演歌は激減した。CDTVの醍醐味であった演歌の「一瞬のこぶし」も消えてしまった。天童よしみはCDTVから消えた。
そして、リニューアルから3年。
これはここ1ヶ月のTOP20だ。
Official髭男dismばっかりやないか!!!!!!
Official髭男dismが毎週5曲以上入っているやないか!
驚異的だ。ちなみに彼らの代表曲「Pretender」は43週連続のTOP10入りを果たしている。紅白効果も相まって1月に入ってから1位を獲得した。CDTV史上、驚異的なロングヒットだということは否めない。
出典:TBS「CDTV」Pretender : Official髭男dism
髭男の曲がここまで多数ランクインするようになったのは「Pretender」大ヒット後である。「Pretender」の関連作品で髭男の他の曲が聴かれて、続々とランクインの流れだ。恐るべき「Pretender」のフックアップ。
これは人々の音楽を聴く状況は大きく変わったことが原因だと思う。一つはサブスクリプションサービスの普及である。これはCDTVのランキングにも大きな影響を及ぼすようになった。アイドルやアニソンは根強いものの、どんどん名前の知られるアーティストがランクインするようになった。しかし、一方で前述の髭男のように一つのアーティストが複数曲ランクインする現象が増えてきた。
ちなみに、髭男「Pretender」「I LOVE…」、LiSA「紅蓮華」、King Gnu「白日」、Snow Man「D.D」の5曲はこの1ヶ月ずっとTOP10入りだ。ランキングがガラッと変わっていた以前の集計方法とは全く違う結果が出ている。サブスクは人々にたくさんの曲が聴ける機会を与えたが、結局聴かれているのは一部の人気の曲だということだろうか。人気曲の露出が増え、さらに再生数が回ってランクインという無限ループ。チャートは停滞を起こしている。
ロングヒットを続けているアーティストたちの中にはサブスクを解禁していないアーティストたちもいる。米津玄師のLemonはリリースしてからというもののずーっとTOP100に入っている。もちろん、ジャニーズ勢はサブスクを解禁していないものの根強い人気だ。SixTONESとSnow ManがTOPに入りつづけているのは、オフィシャルのYouTubeでPVもアップしていることも大きいだろう。今後、この辺のアーティストがサブスクを解禁したらランキングはどうなっていくのだろうか。というか、そもそもサブスク解禁勢がランキングで有利という状況はフェアではないような気もするが。
2020年、CDTVはさらにリニューアルすることを発表した。新音楽番組「CDTVライブ!ライブ!」が3月30日(月)より月曜夜22:00にスタート。これはスタジオから生中継のライブ番組だそうだ。土曜深夜の「COUNT DOWN TV」は「CDTVサタデー」と名称が変更。「CDTVサタデー」。正直、日付は回っているからサンデーじゃんとも思わないでもない。基本フォーマットはそのままというが、果たしてそうなんだろうか。「メジャーに行っても俺たちは変わらねえから」と言いながら変わってしまったバンドを星の数ほどみてきた。
「CDTVサタデー」になっても僕はアビー君(帽子の丸っこい方)や菊池君(メガネかけた三角の方)に会えるのだろうか。変わらないのが良さの一つだったCDTVも変わってしまう。それは少し寂しい。いずれにせよ、多くのアーティストとの出会いの場で会って欲しいなと願っている。あと、しれっと大好きだった「ランク王国」が復活することを願っている。